大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和47年(む)1669号 決定

被告人 野上勇次

決  定

(被告人氏名、事件名略)

右被告事件について、福岡地方裁判所裁判官が昭和四七年一二月一八日なした勾留更新の裁判に対し、被告人より準抗告の申立があつたので、当裁判所はつぎのとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告の趣旨ならびに理由の要旨は、昭和四七年一一月二七日付で福岡地方裁判所裁判官がなした被告人の保釈請求却下の裁判の、却下の理由が刑事訴訟法八九条四号、五号に該当するということであるのに、本件勾留更新の理由が同法六〇条一項一号、二号、三号に当るというのは論理が一貫しないので勾留更新の理由が同法六〇条一項二号に限定されたいというのである。

二、一件記録ならびに疎明資料によれば、本件勾留の基礎になつている公訴事実は、中核派に属する被告人が同派に属する他の二名と共謀のうえ、中核派と対立抗争中の反帝学評派に属すると目されていた被害者に対して、いわばリンチとして本件犯行が行なわれたもので、その傷害の程度は、全身打撲、内臓破裂という頻死の重傷であつたこと、被害者は西南大学生であつて、本件犯行前から被告人等の動静に畏怖の念をいだき、登校の際も被告人等に発見されないように注意していたことが認められ、以上の事実によると、共犯者との通謀、あるいは被害者などへの威嚇によつて被告人が罪証いんめつをすると疑うに足りる相当な理由があると認めることができかつ事案の性質からみて、なお勾留を継続する必要性が認められるので、原裁判が刑事訴訟法六〇条一項二号を理由として勾留更新をしたことは、同法六〇条一項一号、三号を理由としたことの当否について問題にするまでもなく結論において正当であつたということができる。

そもそも、勾留の裁判自体の当否をはなれて、その理由の一部のみについて(全部の理由について不服のあるときは、勾留の裁判自体についての不服申立と解しうる)独立して不服を申し立てることはできないものと解すべきところ、本件準抗告において、被告人は勾留更新の理由と保釈請求却下の理由の一部の不一致を攻撃するのみで、勾留更新の理由中の罪証いんめつのおそれのあることについては明らかに否定していないのであるから、本件準抗告の申立の趣旨からは、勾留更新の裁判の理由の一部のみについての独立の不服申立と解せざるをえないので、本件準抗告の申立は不適法であつて棄却を免かれない。

三、なお付言すれば、逃亡のおそれのあることは保釈請求却下の理由にはなりえないのであるから、この点について保釈請求却下の理由と勾留更新の理由が一致しないことがあるのは何等異とするに足りない。また一般論として裁判官は独立して職務を行なうのであるから、保釈請求を却下した裁判官と勾留更新をした裁判官の判断が常に一致するとは限らないのであり、先の裁判の理由が、後の裁判を当然に拘束するものではなく、後で勾留更新、勾留取消、保釈などをする裁判官はその時点で独自の立場で、勾留の理由、必要性、あるいは権利保釈除外事由の有無を判断するのであるから、本件で被告人主張のような勾留更新と保釈請求却下の理由に不一致があつたとしても、それで被告人の保釈請求手続を混乱せしめ、その権利を妨害することにはならない。

四、先に述べたように本件準抗告は不適法として棄却すべきものであるから刑事訴訟法四二九条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例